着物が好き、でも。
雨の日に着物を着ることをためらうあなたへ、お伝えしたいことがあります。
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店主の体験談です。
週末に着物を着る用事があり、支度をしていました。
この用事そのものは楽しみだけれど、週末の天気予報をみて少し不安な気持ちに。
足元が濡れるのは嫌だな。
晴れでも大変な「着た後」、どうしよう。明日も雨だったらうまく干せない。汗が染みこんでシミになったり、泥汚れが取れなくなったらどうしよう。
雨コートを着るとまた一つ重ね着。これ以上蒸れるのは困る。
とにかく、何もかもぐしゃぐしゃになっちゃう。
不安な気持ちは、考えれば考えるほど大きくなって、でも用事には絶対に行かなければ、と追い詰められて。
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そんな状態だったので当日朝の支度もうまくいかず、浮かない気持ちで駅前での道を歩きました。
家の中が暑くて、外に出てからでいいやと雨コートを腕にかけ、傘を差そうとしたとき。
ぽつりと落ちてきた雨粒がたまたま帯留に落ちて、その七宝焼の帯留が濡れてしっとりと、静かに光るのを見ました。
あぁそうか、
雨の日に感じる「ぐしゃぐしゃ」は、自分の気持ちひとつで優しくポジティブな「しっとり」に変わるんだ。
慌てて傘を差しながらそんなことを思いました。
たまたましていた帯留が七宝焼だったことも幸運でした。
これが高価な帯留なら水滴がついたことにもっと焦っていたと思うし、ガラス玉ならこんな風に光る様子に見とれることもなかったのだと思います。
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着物はお手入れに気を遣う服で、雨の日に着るのをためらう気持ちに変わりはありません。それでも、気持ちを切り替えるきっかけはある。自分にとってはそれが帯留なんだ。
読んでくださったあなたにも、
そんなきっかけになれたら、と思っています。